本とCDの日々(仮)
2006/11/28

TITLE:「 邪魅の雫 

邪魅の雫 邪魅の雫
京極 夏彦 (2006/09/27)
講談社
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しかしこれほど読んでいる間,おれって自分が考えている以上に頭悪いのかなぁと不安になりつつの読書体験も久しぶり。作中人物のせりふを真似て言えば,事件の全体像が頭の中で焦点を結ばないと言うか,ひとつひとつの事件は理解できるが全体としてどういう事件が起こっているのかさっぱり分からない。同時に5,6冊の本を平行して読む自らの読書スタイルに問題があるのかとも思うが,登場人物たちも連続殺人と言いつつその接点が皆目分からないまま右往左往してるから,作者の狙い通りの読み方だったのか。ところが好きなだけ読者を困惑させておいて,最後の数ページで一気呵成に事件は解決(当然京極堂のいつもの演出過剰の長広舌!),しかもしかもラストシーンでは読者を呆然とさせるメロドラマになるのである。9割方読み終わった時点で今回は何だかよく分からないな失敗作じゃないのかと思わせておいて,読了した時にはすっかりやっぱり面白かったと思わせる,作者の手練手管に翻弄される快感を満喫できます。

毎度おなじみ京極堂の薀蓄タイムでは(これを楽しみにこのシリーズを読んでいるようなものだが),こちらもおなじみ世の不幸を一身に背負ったがごときさえない小説家である関口と,書評とは何かについて延々語られる。いつものようにほとんど一方的に京極堂が語っているのだが,「小説は娯楽であり読み手に解釈の自由がある以上すべての書評は正しいが,作者が耳を傾けるに値するものはひとつもない」と気持ち良いくらいの断定。そして物語の終盤では,殺人者の家に大勢で乗り込み,真相解明の前に伝説と昔話との相違についてまたひとくさり。要は真相を明らかにするための地ならしのような作業なのだが,それにしても常識では考えられぬような長時間の立ち話だ。私のような凡人は,的外れな反応をしては京極堂に「君はいったい何を聞いているのだ」と切り捨てられる関口に激しく感情移入するのだが,それでも例えば何か言葉を返したときに,「そうだね」と同意されたらものすごく嬉しいだろうなと愚にもつかぬ事を夢想してみたりもする。

今回は付録として付いていた「全作品解説書」がものすごく重宝しました。こういうのが欲しかったんですよ。見ていると全作品をもう一度読み返したいという誘惑に駆られるが・・・。

2006/11/23

TITLE:「 始まりは“まごころ”だった。 

始まりは“まごころ”だった。 始まりは“まごころ”だった。
太田裕美 (2006/11/22)
Sony Music Direct
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今でも「木綿のハンカチーフ」や「しあわせ未満」などの珠玉の名曲を耳にすると条件反射で目頭が熱くなってしまう。つまりそういう世代だということです。似たような選曲のベスト盤のリリースが多くてややうんざりしていたのですが,これは22年ぶりのオリジナル・フルアルバム(つまり「TAMATEBAKO」以来ということですよ!)。タイトルは彼女のデビューアルバム(1975年)が「まごころ」だったことを踏まえたものです。失礼ながらもう50歳を越えたくらいの年齢のはずだが,ジャケ写の相変わらずのかわいらしさ・品の良さに参りました。

ほぼ全曲のアレンジを職人笹路正徳。ライター陣はクラムボン原田郁子,ハナレグミ,宮川弾,堂島孝平,YO-KING,キンモクセイ伊藤俊吾,ビギン島袋優などなどその他大勢。もともと太田裕美と縁の深い人や意外な顔ぶれも含めて,いずれも太田裕美の声に合う優しいメロディーの書ける若手が集められている,ということか。そして出来上がった音は,まさにヒーリングというコトバがぴったりの,普遍的な,そしてこの上なく洗練されたオーガニックなサウンド。ご本人の自作曲も2曲収められ,これがまた良い曲なんだ。

そしてここからは超個人的な超保守的な意見。それでもやはり,われわれ世代にとっては,太田裕美といえば松本隆&筒美京平なのだ。1998年発表(もう8年前!)のミニアルバム「魂のピリオド」で久々に黄金トリオが復活したときの感激は記憶に新しい。松本隆の詞も凄みを増しており,別れの情景を歌ったタイトル曲で,“私たち 心の奥を 見せ合ったことなんてない”なんてあの声で歌われて悶絶(?)したものです。天才小倉博和のシンプルだが音色は確実に今を感じさせるアレンジの功績も大きかった。また1曲収録されていた自作曲「僕は君の涙」,これを聴いて良い曲だと言わなかった人を私は知りません(それほど多くの人に聴かせたわけではありませんが)。

まさか次はまた20年後ということはないと思うが,今度は例えば松本&筒美作品と自作曲を半々のアルバムなんてどうでしょう。もちろんすべて新作書下ろしで。いや別に今作が悪いわけでも物足りないわけでもないのだが,まあ古いファンは皆それぞれ,理想のアルバムを夢見るものかもしれません。とにかく今後も,コンスタントにオリジナルを,ベストを出すならせめて新録を,リリースしていってほしいと願います。

2006/11/21

TITLE:「 ムーンライダーズの30年 


ムーンライダーズの30年

ミュージック・マガジンの増刊だっていうから何の疑問もなくA5版(と言うのかな)の本を書店の音楽誌コーナーで探したのだが,あららやっぱり地方の小都市には置いてないなこれはAmazonに注文しなきゃかなと思ってたら,何と目の前の棚に2冊鎮座ましましているではないですか。何だこんな大きいんだ灯台下暗しだよ。とわけの分からぬことをつぶやきつつ無事に購入。カバーは「青空百景」の頃の写真だ。インタビュー中の若かりし頃の写真は懐かしや「サウンドール(古すぎる・・)」で使用されたものでは?

内容はともかく,何が楽しいかって広告が全部ムーンライダーズ関連なのね。おお「いい仕事!Sony Music編」はホントに出るんだ。今まで半信半疑だったよ。でも真鍋ちえみは今更でしょ。「CM WORKS」もHMVに曲目アップしてたから現実に出るんだなぁ。「POODLE/クリス」も再発されるそうで,どれだけ需要があるか知らないがこの名ロリータ・アルバムを初めて聴ける人が羨ましい。ライダーズ関連のアルバムに「ガラスの国境/矢野有美」が入ってないな。傑作「夏への手紙」だけでも,「岡田徹のイイ仕事!」とか何とか言って出してくれないものかな。それにしても野田幹子やら渡辺美奈代やら,レンタル落ちの中古CD買い漁ったのって割と最近のことのような気もするなぁ。

フライト・レコーダー」や「20世紀のムーンライダーズ」の巻末に提供曲リストはあったけど,しかし「20世紀のムーンライダーズ」からもう10年近く経つんだから,30周年記念の提供曲リストのコンプリート版が欲しかったところ。どこかの出版社で出してくれれば,5000円くらいでも売れると思うのだが。どうか。

2006/11/13

TITLE:「 マニアの受難 

moonriders the movie「マニアの受難」Original Sound Track moonriders the movie「マニアの受難」Original Sound Track
ムーンライダーズ他 (2006/11/02)
コロムビアミュージックエンタテインメント
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いつものようにローカルTVの音楽番組でひっそり特集される,のではなく堂々劇場公開されるらしい,100分にわたるムーンライダーズ30周年の記録映画。これはそのサントラということで,4月の野音のライブを中心に収録されてる。おそらく九州で上映するとしても博多どまりだろうし,例え劇場で観てもどうせDVDが出れば後先考えず買ってしまうのだから,観るのはDVD化されてからでいいか。しかし,こうも短期間の間にライダーズの音源がたくさん聴けてしまうと,来年以降,再びほったらかしにされそうで不安にならないこともない。でも思えば「ドントラ」の後,5年間ライダーズとしての活動を休止してたときも,このまま解散するのでは,と考えたことは一度もなかった気がする。それに,同じアルバムを何度も聴き込む時間が取れて,なおかつ新作に対する飢餓感が醸成されるのに,やはりある程度の間隔があった方がいいのかもね。

野音ではみうらじゅん氏や野宮真貴姉さんや原田知世ちゃんも確か歌ったと思うんだけど,CD少しでも売る気があったらそちらを収録するべきなのでは,とも思うが,映画では収録されてない分のライブが観れるのだろうか。何だか妙におめでとうを連呼する曽我部恵一や,相変わらず人の良さ全開のメンバー紹介をするあがた森魚など,それぞれのキャラが面白い。ユキヒロもどうせならビートニクスの曲やって欲しかった気もするが,ライダーズのお祭りだからダメかな。そんな中で,歌い出すだけで場の空気を変えてしまうのがさすが純音楽家エンケンだ。細野さんとそんなに年齢変わらないはずだが,もう元気とか健在とかそういうレベルじゃなく,存在感が凄い。主というかもはや非人間的なレベル。これこそぜひ映像で観てみたいものだ。

これだけリリースが続くと玉石混交と言うか,あまり一般向けじゃないものも含まれるが,このCDはまさにタイトル通りのマニア向けかも。まあ,ライダーズの音源すべてがマニア向けなのかもしれないけど。ライナーノートの鈴木慶一インタビューが面白く,インタビュアーとの相性の問題かもしれないが,こんなに素直に答えてる鈴木慶一って珍しいんじゃない?

2006/11/08

TITLE:「 アンビエント・ドライヴァー 

アンビエント・ドライヴァー THE AMBIENT DRIVER アンビエント・ドライヴァー THE AMBIENT DRIVER
細野 晴臣 (2006/09/28)
マーブルトロン
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本書と全く関係のない話題。カープの黒田がFA宣言せずにチームに残る,というニュースを聞いて,まだ興奮しているのである。確かに「他のチームのユニフォームを着て,市民球場で,カープの選手を相手に投げる自分が想像できない」というセリフは,われわれカープファンを感激させるが,プロの選手としては意識の低いものかもしれない。或いは選手会が長い交渉の末に勝ち取った権利を,軽んじた発言かもしれない。それでも,われわれファンにとって,こんなセリフを無邪気に口に出来るプロ野球選手がいるチームのファンであることを,これほど幸福に感じた瞬間はなかった。もしかすると優勝したときよりも(もうずいぶん前の記憶だが),嬉しかったかもしれない。他のチームのファンも,この時ばかりは,カープファンが羨ましかったのではなかろうか。映画やドラマじゃなく,現実の出来事に感激して目頭を熱くするなんて,これもずいぶん久しぶりのことだ。

さて,以外にもハードカバーの本書である。先のソロライブを収めたDVDと同じく,とにかく過剰な人生を過ごしてきた細野さんの,過剰なものを捨てていく意識の流れを綴ったエッセイとでも言えばいいか。例えばネイティブ・アメリカンの教えに共感する。例えば古井由吉の小説を読む。例えば「彼岸の音」を表現したいと考える。どこを読んでも,人生を一歩引いて見つめている(ように見える)細野さんらしいコトバ。でも涼しい顔して生きるために,有形無形のいろいろなものを犠牲にしたり人知れず陰で悩んだり努力したりしている様も何となく透けて見えてくる,そんな細野さんの愛すべき人柄を感じさせるエッセイ集だ。

坂本龍一が細野さん宛てに「ビーチボーイズが聴きたいのだがどのアルバムから聴けばよいか」とメールで尋ねてきたり,高橋幸宏は年々自分の父親の亡くなった年齢に近づいている事を意識して生きているとか,その他われわれをくすぐるのに充分なエピソードもたっぷりある。その辺りが,何だかんだ言ってクールな振りしてても,細野さんってサービス精神旺盛な人だよなと思って,われわれファンはちょっと安心するのである。

2006/11/05

TITLE:「 殺人の門 

殺人の門 殺人の門
東野 圭吾 (2006/06)
角川書店
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手紙」を読んでから個人的に第二次東野圭吾ブームになってしまい,「ゲームの名は誘拐」「時生」,そして本作と続けて読んだが(単に買い置きの文庫本を消化しただけだが),どれも相変わらず平易な文章で,しかも特に目を見張るような事件が起きるわけでもないのに,読み出すと止められない小説なのだった。

本書は,小学生のときにいわゆる不幸の手紙をある友人からもらった主人公が,就職・結婚にいたるまで,つまり人生の大事な局面をその友人に翻弄されつつ,つねに彼に対する殺意を育てる物語。直木賞作家に対して失礼な感想であることは承知の上で,それにしてもこんな話よく思いつくよなということに感心すると同時に,それをこうやってある男の半生記の物語として書き上げる力がすごいなと思う。しかもこの確信犯的な後味の悪さ。

翻弄されると言っても,何度だまされても友人のまことしやかな甘い言葉にだまされ続ける主人公が単にバカなだけという気もするし,実際頭の悪さに読んでて不快にもなる。この主人公がだまされて,いわゆる悪徳商法に幾度となく手を染めるのだが(いわゆる老人相手のリフォーム詐欺とかあの類い),自分も将来孤独なひとり暮らし老人になったら,この手の詐欺に簡単にはめられてしまうのかしらんと思いながら読んでたら更に暗い気持ちになる。

考えてみて下さい。一人暮らしで日常生活もままならぬくらい年老いて,年金と貯金だけが頼りの生活をしてるときに,若い若い可愛い娘が家に来て,「私のおじいちゃんは早く亡くなったから,おじいちゃんを知らないんです。私のおじいちゃんになって下さい」とか何とか言われてさ,身の回りの世話なんか甲斐甲斐しくされてごらんなさい。通帳と印鑑の保管場所なんて簡単に教えちゃうんじゃないか。怖いですよ。完全に老いる前に,何か対策を考えないといかんよな。