本とCDの日々(仮)
2007/09/26

TITLE:「 Taruphology 


タルホロジー / あがた森魚
1曲目の「東京節」,文字通り或いは期待を裏切らない大正ロマンの流行歌だ。ここで聴こえる細野さんと鈴木慶一のヴォーカルでもう半分泣いてる。大御所揃い踏みだ。続くヴァージンの名曲「百合コレクション」,知らず知らず“It's only”なんて一緒に口ずさんでいる頃には,完全に泣いている。更に続く「サブマリン」で狂喜しながら,プライベートではカラオケ大嫌いのくせに大声で歌ってしまっている。そしてあえてムーンライダーズにカバーしてほしいと思うあがた版「いとこ同志」。この手ののたうつような美しいメロディーは鈴木慶一の単独ヴォーカルで聴きたい気がする。

その他おなじみの曲からあがたワールド炸裂のタルホ組曲まで(「弥勒」はケイト・ブッシュにカバーさせたい),一聴忘れがたい印象を残す曲の数々。今更のようでもありその真正面ぶりの覚悟にこちらも姿勢を正すかのごときアルバム・タイトル。そして久保田麻琴のグルーヴとあがたワールドとの相性の良さに驚くとともに,アングラフォークもニューウェーヴもすべて呑み込んだ果てに屹立するあがたワールドに,今更相性もクソもないものかと改めて石の上にも35年という年月に想いを馳せるようでもある。

それにしてもセルフカバーがこれほど自然な印象のアーティストって珍しい。そして例によって35周年記念のキャンペーン,その名も「珊瑚キャンペーン」。必須の今作を含み4枚の商品購入でレア音源がもらえるそうであります。また既に持ってるCD買わされるわけだが,とりあえず当時12インチだった音源含む「バンドネオンの豹と青猫」の再発は買わねばならないだろうなぁ。

2007/09/17

TITLE:「 ラストドリーム 

ラストドリーム (新潮文庫 し 35-10) ラストドリーム (新潮文庫 し 35-10)
志水 辰夫 (2007/08)
新潮社
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妻をガンで亡くしたショックを引きずる中年男が,仕事を辞め世捨て人のごとくなって妻の故郷を訪れるまでの物語。簡単に言ってしまえばそれだけのストーリーだが,主人公の過去として語られる,食品会社の海外駐在員として東南アジアでエビ養殖に奮闘する話や,まるで動物が互いの力関係を確認するために争うかのごとき会社内の人間模様,或いは現在の主人公が巻き込まれる北海道のニューエイジっぽい怪しげな施設の存続問題など,膨らますだけ膨らまされている分,退屈はしない。必ずしもそこからラストへ向けてのうねりのようなものが生まれているとは言えないのがつらいところだが。

そうしたプロットの破綻も頻繁に交差する時系列による読み難さも何のその,著者はいつも以上に力技でラストまで物語を熱く描き切る。それでもやはり他の著者の作品群に比べて成功したとは言い難く,解説の吉野仁氏の賞賛の言葉もやや苦しげだ。しかし人生の晩年にさしかかった男の,それゆえの屈託や虚無を内包しつつ,熱にうかされるように生きるさまを描くその筆致は,やはり得難いシミタツ節と言う他ないのだが,今回はその著者の思い入れがやや勇み足気味。しつこいようだが,もう少しストーリーに読者を巻き込むうねりが欲しかったところだ。




2007/09/10

TITLE:「 キルプの軍団 

キルプの軍団 (講談社文庫) キルプの軍団 (講談社文庫)
大江 健三郎 (2007/08/11)
講談社
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1988年に岩波から出た青いハードカバーで読んだ記憶があるので,およそ20年ぶりの再読。20年分年を取って若い頃より深みのある読書ができるかと思ったが,読後感はあまり変わらなかったような気もする。本書に限らずむしろ若い頃のほうが,読んだ本の内容にいちいち影響される新鮮で初々しい読書をしていたのかもしれないよなぁ。

キルプ,とは本書の主人公である高校生が刑事の叔父さんと原書で読み進めている,ディケンズ「骨董屋」に登場する悪役の名前だ。そもそもディケンズを原書で読む高校生という設定に驚くが,初読時にはそれほど違和感を感じなかった気がするから,おそらく現在の私自身が昨今の高校生にあまり知的なイメージを持っていない,そういう偏狭な認識が投影されているのかもしれない。あとがきによると,当時も「主人公の高校生は大学助教授並みの教養がある」と揶揄されたらしいが,著者は「高校生の実力そして大学助教授の水準を知らないのか」と反論している。

著者自身をモデルとする作家を父に持つ主人公は,叔父さんに導かれるようにして,元革命運動家と元サーカスの一輪車乗りという不思議な組み合わせの夫婦と知り合い,彼らの映画製作を手伝うことになる。やがてその彼らのアジトともいうべき映画制作の現場で,革命運動家という言葉でわれわれが連想するまさにその類いの,むごたらしい事件に巻き込まれることになるのだ。

そうしたドラマティックな展開はありつつも,やはり作品の基底にあるのは,著者の他の作品の多くと同様,いかに自己を回復(今風に言えば「癒し」)させるかということである。それも実効性のない無意味な言葉による表面的な励ましではない。問題を問題として受け止めつつ・抱えつつ,それでも前向きに生きることのできる人間という生きもののしたたかさを著者自身が信じることによって,それはわれわれに伝えられる。時に幼稚なほど饒舌になる著者の語り口は,はたして万人を納得させ得るものとは言い難いが,しかしそうした人間の不思議な強さについて書かれた物語を読むことが,心の深いところで静かにわれわれを鼓舞してくれるようであるのもまた事実なのだ。



2007/09/04

TITLE:「 屋根の上の魔女 

屋根の上の魔女―武富健治作品集 (CR COMICS DX) 屋根の上の魔女―武富健治作品集 (CR COMICS DX)
武富 健治 (2007/07/03)
ジャイブ
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こんな初期の作品までまとめられるほど,「鈴木先生」が大人気なのか或いは先に出た作品集「掃除当番」が好評だったということか。ほとんどの作品が同人誌的な独りよがりの域を出るものではなく,正直読み通すのが辛い。実際に同人誌に掲載されたらしい作品もある。帯には「瞠目せよ,武富健治の超絶世界!」とか「前代未聞の文芸漫画」など,著者本人がよく了承したなと思うような気恥ずかしい惹句が躍っている。おそらく出版社サイドの意向だろう。どういう定義で「文芸」といっているのか知らないが,本来マンガには小説のような深みは望むべくもないとでもいうようなマンガ蔑視が透けて見えるようで,個人的にはやや不快。唯一面白いのは著者が手塚治虫的なスターシステムを自覚していることで,「鈴木先生」役の男が主演の漫画が二編収録されている。いずれにしてもこのような観念先行の作風からスタートして,表現としてのエンタテインメント性を獲得した傑作「鈴木先生」にたどり着いたのかと思えば,なかなか感慨深く読めるかもしれない。誰にでも習作の時代はあるのである。武富健治のすべての作品を読みたい!と思う熱烈なマニア向けの一冊。

例によって最近聴いたCD。買いそびれていた再発のあがた森魚「乗物図鑑」をようやく購入。ヴァージンVS前夜のニューウェイブ傾倒が止められない臨場感あり。あがたファンは買いです。ってあがたファンなんてみんなマニアだから既に入手済みでしょうね。映画「パプリカ」観てその音楽が耳から離れなくなったので平沢進の「パプリカ Original Soundtrack」も購入。この陶酔感・浮遊感は尋常ではない。常人の想像を超える音。一日中聴いていると帰ってこれないような不安すら感じる。とにかく凄いです。

2007/09/01

TITLE:「 私が語りはじめた彼は 

私が語りはじめた彼は (新潮文庫 み 34-5) 私が語りはじめた彼は (新潮文庫 み 34-5)
三浦 しをん (2007/07)
新潮社
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単行本刊行時に話題になっていたので購入。その後直木賞も取ったことだし唯一読んだことのあるエッセイ集「人生激場」も面白かったことだし。一人の大学教授について,その周囲の妻子・愛人・助手などが語る連作短編集。そう言えば川上弘美の「ニシノユキヒコの恋と冒険」もこういう展開だったような。冒頭の「結晶」がなかなか楽しく最後まで読み進めたが徐々に失速していく感は否めない。特に中盤,作者の想像力のたくましさに,どこか痛々しさを感じてしまうのは私だけだろうか。何となく地に足が着いていない感じと言うのかな。

例えば「結晶」の中で,件の教授婦人が,浮気についての脅迫文を携えて相談にやって来た教授の助手に向かって,「真相はますます闇の中へ」と歌うように言う,というシーンがある。こういう筒井康隆的な世界を反転させる瞬間が度々どのエピソードにも訪れるのだが,「結晶」ほどそれがスムーズでないように思う。その違和感がなくなれば,どれほどストーリーが荒唐無稽でも,個人的には楽しめるのだが。

話変わりますが,最近遅まきながら高島俊男の「お言葉ですが…」シリーズをちびちび読んでいるのだが,「広辞苑の神話」での太宰「津軽」の注釈を断罪する件り,いやもの凄い迫力ですね。それにしてもこの渡部とかいう大学教授はその後の仕事に影響なかったのかね。