本とCDの日々(仮)
2008/03/15

TITLE:「 731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く  

731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く (新潮文庫 あ 58-1)731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く
(新潮文庫 あ 58-1)

(2008/01)
青木 冨貴子

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ご多分にもれずティーンエイジャーの頃に本多勝一や森村誠一の著作を読んで日本軍が中国でやってきた悪行三昧にショックを受けたクチなので,実はこれらの作品が中国の反日プロパガンダに基づく一方的な情報提供によって書かれたフィクションだと言われても,そう簡単には洗脳は解けないのである。731部隊が存在してその規模はともかく満州で捕虜を使った人体実験を行ったというのは最低限の真実だとしても,南京事件の方は未だに実際にあったのかなかったのか論争が続けられているような状況である。捏造派の意見を聞くとそれなりに説得力があるような気もするのだが無論すべての文献を調べるわけにもいかず,いずれにしろ戦時下の集団ヒステリーのような状況ではそういうことも起こり得るかもしれないと能天気に考えることが許されないのは,われわれ日本人がまさに事件の当事者であるからに他ならない。それにしてもたかだか60年ほど前の事件についてその存否すら明確でないとは,われわれが学んで知ったつもりになっている歴史がいかに危うい根拠の上に成立しているものであるか,それを考えると虚しさすら覚えるようである。

本書はその悪名のみ高い731部隊長の石井四郎の戦後記したメモが発見されたことをきっかけに,戦後の混乱の中で731部隊の情報がどう取り扱われたかを丹念に追ったノンフィクション。とにかく人体実験の人道的な可否よりもその貴重なデータを相手より先に入手しようと争う米ソの駆け引きが何よりおぞましい。そのためにGHQの中でアメリカ人同士ですら欺き合うほどだ。そしてメモから透けて見える戦後の生活に汲々とする石井の姿は,むろん生き延びることが何より困難な時代だったことを差し引いて考えても,決して責任を正面から被ろうとしない現代の為政者のそれと重なる。

これを読んでいる時に,かねてより見たかったアラン・レネの映画「夜と霧」をたまたま観ることができた。不思議なシンクロニシティと言うべきか,暗澹たる気持ちで観終えたのだが,例えば中世ヨーロッパの例を引き合いに出すまでもなく江戸時代に残虐な刑罰が行われたと言われてもわれわれが今ひとつピンとこないように,これら先の戦争の記録もやがてリアリティを失っていくのかもしれないと危惧する。それならたとえ左翼的と言われようが,こうした残虐な行為を人間として繰り返してはならないとする教育は,やはり必要だろうと思う。